A: 高エネルギー天体のX線データ解析による宇宙物理学(観測研究)
Last update, 2021/05/24
1: 銀河団、銀河群のX線観測による研究
2: その他の宇宙X線観測研究
1: 銀河団、銀河群のX線観測による研究
銀河団は、「宇宙最大の自己重力系」 である。直径 300 万光年、重さは銀河1万個分、太陽の1015 倍もの質量を持つ。
銀河団の重力ポテンシャルの深さは、速度にして秒速数千km である。閉じ込められたガスはその重力エネルギーで1億度のプラズマになり、X線を放射する。これをX線観測衛星で撮像分光観測すると、プラズマの密度と温度の空間分布を計測できるため、銀河団の重力ポテンシャルも計ることができる。
宇宙の物質の9割以上は我々の全く知らない物質「ダークマター」でできている。銀河団の重力ポテンシャルの分布は、その性質を明らかにしてくれる。最近では、可視光の観測による「弱い重力レンズ効果」でダークマターの分布を測れるようになった。実はこの独立の情報が増えたことで、X線観測と比較することで面白い世界が見える。容易に想像できるように、「同じ物理量を2つの方法で観測できる」ことで、2つの独立した測定を比較することで、多くのことがわかるのである。
銀河団は宇宙論にもつながる。この天体は大規模構造の「節」にあたり、その形成の歴史は、宇宙の形成史でもある。大規模構造の進化の中で、2つ以上の銀河団が合体する時、その衝突速度は秒速 1000-2000 km に達する。この衝突現象は、ビックバン以降で宇宙最大のビックイベントの一つである。そこでは粒子加速、銀河団ガスの加熱、磁場増幅、乱流励起など、多様なエネルギー開放現象が起きている。
つまり、宇宙は(=銀河団)は若い。銀河団の動的なタイムスケール(例えばテスト粒子=銀河が銀河団の中を1周する時間)は、10億年を超える。宇宙の歴史 137 億年の中で、銀河団は、なんとか自己重力系としてまとまりはとっているものの、まだまだ落ち着いていないことは明らかである。最近の宇宙論進化のシミュレーションでも、現在の宇宙は、まだまだ激しい成長の途中である。「悠久の宇宙」などという観念は、どこかにいってしまった。しかも、大規模構造の形成に伴い、どんどん周囲から銀河や銀河群(銀河団の1/10-1/100くらいのもの)などが落ち込んでくる。その周辺領域では、力学平衡には達していないし、ガスが低密度で高温のため衝突平衡にも達しておらず、銀河団成長に伴う多くの「非平衡」な現象がおきているはず。例えば電子とイオンの温度がまだ平衡になっていなかったり、乱流という形でガスのバルクな運動量が残りまだすべてが熱化していない状況が起きる。
我々は、銀河団/群中での広がった空間における粒子加速を追っている。激しい衝突の中で高エネルギー粒子が生み出されており、100 万光年を超える大スケールで GeV 電子が広がっている様子が、シンクロトロン電波の観測からわかっている。X線でこの同じ GeV 電子(宇宙背景放射 CMB をコンプトン散乱で叩きあげる=逆コンプトン散乱)を見ることができれば、銀河団でも粒子加速の総量に加え、磁場の総量も測定できる。なぜなら、シンクロトロン放射は電子と磁場、逆コンプトン散乱は電子とCMBの相互作用であり、3つの登場人物からなる。ただCMBは既知なので、2つの観測量があれば、簡単な計算ですべてを解くことができる。硬X線の高感度観測が実現すれば、GeV電子と磁場のエネルギー密度を知り、銀河団衝突における粒子加速と磁場増幅が、加熱と比較して無視できないかどうかを確認できる。すでにこの2成分の非熱的な圧力は、熱的な圧力の1-2割を超える例も示唆されており、その総量を知ることは重要である。
また、銀河団ガスの加熱そのものも重要である。そもそも銀河団の高温プラズマは、イオンと電子の2流体ガスであるため、イオンから電子への熱輸送など複雑な非平衡状態が生じている。どうやらクーロン散乱だけでなく、様々な「熱輸送」が行われている気配があり、「加熱」そのものもたいそう面白い。
*銀河団の研究では、牧島名誉教授、理研のGu博士、広島大学の深沢教授などX線グループの「銀河群団軍団」の方々に加え、首都大の藤田教授始め、山形大の滝沢さん、国立天文台の赤堀さんなどと共同研究をしています。
*2016年に打ち上げられた「ひとみ」衛星は、残念なことに失われてしまったが、その短い観測の中で、銀河団研究に大きなインパクトを残している。その結果については、「B-2」を参照願いたい。そして今、その失われた優れた観測能力の復活とさらなる進化を目指した衛星計画XRISMが、2023年の打ち上げを目指して開発が進んでいる。
2: その他の宇宙X線観測研究
我々の銀河の銀河面からの広がったX線放射、超新星残骸、ブラックホール、ガンマ線バースト、中性子星連星などに興味があります