名古屋大学U研X線グループ
名古屋大学大学院理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 宇宙物理学研究室
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X-ray Study of Nuclear Activity in Nearby Galaxies
(X線観測による近傍銀河の中心核活動性の研究)

寺島 雄一

Abstract

活動的銀河核(Active Galactic Nuclei; AGN)は電波からγ線に至るあらゆる 波長で莫大なエネルギーを放射しており、そのエネルギー源は大質量ブラック ホールに物質が落ち込む際に解放する重力エネルギーであると考えられている。 このようなAGNは銀河のうち約 1%に存在している。ところが、近年の可視光 による分光サーベイ観測で明るい銀河の約1/3と非常に多くが、低電離の可視 輝線([NII]λλ6548, 6583、[SII]λλ 6716, 6731 など)が強いという特徴を持つ低電離中心核輝線領域(Low Ionization Nuclear Emission-line Region; LINER)と呼ばれる弱い活動性を示すことがわかってき た。しかしながらLINERの起源はまだ明らかになっていないが、低光度のAGNに よる光電離とする説が有力である。もし、多数存在しているLINERがAGNであれ ば、これまでに考えられていたよりもはるかに多くのAGNが存在することにな る。そうであれば、これらのAGNは、遠方(=過去)に多数存在していた非常に明 るいAGNであるクエーサーが進化した姿であるかもしれない。
X線はAGNの中心近くから放射されるので、AGNの有無の検証とともにAGN近傍で 起こっている物理プロセスを探るために適した波長である。また、X線は透過 力があり厚い物質に隠された中心核を見通すためにも非常に有利である。しか しながら、これまでは観測装置の感度とエネルギー帯域の制限から、近傍銀河 の弱い活動性の観測は極めて少数に限られていた。我々はX線天文衛星「あす か」によりこれらの銀河の観測を行ない、AGNに特徴的なX線放射を探索し、 AGNの有無を検証した。「あすか」衛星は0.5-10 keVとい広いエネルギー帯域 での結像観測が可能であり、弱い活動性の系統的な観測が初めて可能になった。 我々は、観測したほとんどすべての銀河からX線を検出した。ほとんどの銀河 について、2-10 keVというエネルギー帯域のX線が検出されたのは本観測が初 めてである。観測したLINERのほとんどからAGN起源と考えられる点源状のX線 源を検出し、その光度は代表的なAGNであるセイファート銀河に比べ 1桁から 3桁小さかった。また、これらのX線源の光度は可視光のH$\alpha$輝線の光度 と非常に良い正の相関を示すことを明らかにした。また、観測されたX線光度 は可視輝線の光度を光電離で十分説明することができるものであった。これら の観測事実はLINERの可視輝線が低光度のAGNによる光電離であることを強く支 持するものである。このことはAGN/大質量ブラックホールが極めて多く存在す ることを示唆している。また、光度は小さいが数が非常に多いことから、その 起源が未解決である宇宙X線背景放射に寄与している可能性も考えられる。

一方、いくつかのLINERでは、多くのLINERで見られたHα輝線光度とX線 光度の相関に比べ 1桁程度X線で暗く、そのX線光度は、爆発的星生成(スター バースト)かあるいは銀河内に存在するX線星の重ね合わせと考えて矛盾がない。 これらは、AGNによる光電離以外のメカニズムでLINERの輝線が作られているか、 あるいはAGNは存在しているが2 keV以上のX線でさえも強い吸収により隠され ている可能性が考えられる。

我々はさらに低光度のセイファート銀河の観測も行ない、AGNからの放射が支 配的と考えられるLINERとあわせて、低光度AGNのX線での性質を調べた。AGNが どのようなメカニズムで莫大なエネルギーを放射しているかはまだ解明されて いない。光度が低いという極端な状況にあるAGNの性質を観測的に調べること で、AGNがブラックホールからエネルギーを取り出し放射に転化するメカニズ ムに対して強い制限をつけることができる。観測から低光度AGNの連続X線スペ クトルは、光度の大きいAGNと極めて良く似ていることがわかった。強い吸収 体によって隠された低光度AGNのX線スペクトルは、これまでに知られていた光 度の大きいAGNとの違いは見られなかった。一方、強い吸収を受けていない低 光度AGNについては、鉄輝線の強度や中心エネルギーが多様で、光度の大きい AGNと異なった性質を示していた。天体による鉄輝線の個性は、降着円盤の鉄 の電離度の違いまたは、ブラックホールの周りに存在している降着円盤の構造 そのものの違いの可能性が考えられる。

 
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