寺島 雄一
Abstract
数多く存在する銀河のうちの約1% には、その中心核のごく狭い領域から、 銀河に含まれる星すべてにも匹敵するエネルギーを放出している活動的銀河核 (Active Galactic Nuclei; AGN)が存在することが知られている。しかし、AGN をもたない通常銀河と活動銀河がどのような関係にあるのかはよくわかってい ない。1980年代には可視光での分光観測によって通常銀河の中心核にもAGNの 存在する可能性が示唆されてきたが、その証拠が得られているものはほとんど ない。通常銀河の中にAGNの存在を確かめる最も有力な方法はX線観測により、 10keV以上にまで伸びたべき関数型のX線スペクトル、点状のX線像、X線強度の 変動を検出することである。
X線天文衛星「あすか」は世界で初めての0.5-10keVという広いエネルギー帯 域での高感度の撮像観測が可能であり、これにより通常銀河に隠れている低光 度のAGNの探索ができるようになった。そこで「あすか」を用いて近傍の渦巻 銀河M104 (NGC4594)、M106 (NGC4258)、M51 (NGC5194)のX線観測を行なった。 その結果、これらの銀河からAGN起源と考えられるX線放射を検出した。さらに、 これらの銀河の2keV以下のX線像はいずれも銀河スケールに広がり、kTが 1keV以下の高温ガスに特徴的な輝線スペクトルが観測されたことから、銀河全 体に広がった温度kT~0.5 keVの高温ガスが存在することが明らかになっ た。この温度は通常の渦巻銀河の重力ポテンシアルでも閉じ込め得るので、渦 巻銀河に普遍的に高温ガスが存在する可能性を示している。
M104は2keV以上の高エネルギー側では、X線像は点源状でX線スペクトルは1 型セイファート銀河に似たほとんど吸収を受けていないべき関数であらわされ た。M106も3keV以上のX線像は点源状であり強い吸収を受けたX線スペクトルと 鉄輝線が観測された。これは2型セイファート銀河の特徴的なスペクトルであ る。M51のスペクトルからは強い鉄の蛍光輝線が観測され、その強度を説明す るには強い吸収を受けたAGNが存在している必要がある。
これらの渦巻銀河にみつかったAGNは2-10keVのX線光度が 1040-41 ergs/sとセイファート銀河に比べ1-2桁以上小さいが、(高温ガスを除いた)AGN 成分のX線スペクトルはよく似ていることがわかった。しかし、これまでに知 られている、光度の低いAGNほど速いタイムスケールで振幅の大きい強度変動 を示すという傾向に反し、今回みつかった低光度AGNはそのような変動を示さ なかった。これらの特徴から低光度AGNと通常のAGNや通常銀河との関係につい て議論する。
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