磯部克明
Abstract
銀河群は銀河と銀河団の中間的な階層で、数個の銀河から構成される重力的に 束縛された系である。最近、銀河団で知られていたような銀河間空間に広がっ た高温ガスが、銀河群にも存在していることが明らかになった。本論文では、 X線天文衛星「あすか」で観測された4個の銀河群(HCG62、NGC2300 group、 HCG42、HCG48)の解析の結果を示す。0.5-10keVの広いエネルギーバンドで高 感度・高エネルギー分解能の撮像観測が可能な「あすか」によって、初めて、 ハード成分や高温ガスに含まれる重元素の存在比まで論じることが可能になっ た。
これらの銀河群に共通していえることは、そのスペクトルが高温ガスからのソ フト成分と低質量X線連星の重ね合わせや低光度の活動的銀河核のような銀河 に付随したものと考えられるハード成分からなることである。しかし、高温ガ スは銀河群によってその広がり、温度、元素組成などが異なる。
HCG62については、その高温ガスは直径 600kpc と銀河スケールを越えて広がっ ている。F e の L 輝線で決まっている温度は中心領域で 〜0.85 keV、外 側で 〜1.0 keV という構造がみられる。高温ガスに含まれる重元素の存 在比は中心から外側にかけて太陽組成の 0.3 倍から 0.15 倍へと減少してい く。元素間の存在比は領域によらず太陽組成のものと等しく、今までに「あす か」で観測された他の 2 つの銀河群と一致することが分かった。
NGC2300 group の高温ガスはメンバー銀河に付随した成分と直径 500kpc と淡 く銀河間空間に広がった成分からなる。中心銀河 NGC2300 に付随した高温ガ スと銀河間空間に広がった高温ガスの温度はともに 〜0.85 keV であった。 銀河間空間に広がった高温ガスの元素間の存在比は Fe に対して Si などの軽 元素が太陽組成と比べて 2 倍ほど大きく、銀河団で観測された傾向に近いこ とが分かった。
HCG42 の高温ガスの広がりは 250 kpc と小さく、Ne 輝線で決まっている温度 は $\sim$0 .35 keV と今まで観測された銀河群のなかでは極めて低い。さら に、高温ガスの元素間の存在比は Fe に比べて Ne、Mg、Si などの軽元素が 10 倍以上大きく、爆発的星生成活動を示す銀河の特徴と類似していることが 明らかになった。
一方、HCG48 については観測されたX線は弱く、銀河群に付随した高温ガスが 少ないということが分かった。
銀河群は可視光では似たような特徴を持つにもかかわらず、X線で観測するこ とのできる高温ガスの性質は個性がある。本論文では、以上のような解析結果 をもとに銀河群ごとの高温ガスの特徴を決める要因を重力ポテンシャル、超新 星、その結果生じる銀河風の起こりかたなどを含めて考察した。
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