2000年2月 日高 康弘
Abstract
X線天文衛星における結像光学系(X線望遠鏡)の搭載は比較的最近の1978年の 「Einstein」衛星からであるが、その登場よりX線天文衛星の性能は格段に進化を 遂げた。 それは大きく2つの点に分けられる。 1つめは、角分解能を もつことであり、観測対象天体の位置や空間構造を把握することができる。 2つめは、集光力の増加によるS/N比の向上である。
日本の5番めのX線天文衛星であるASTRO-Eは、2000年2月にM-Vロケットによって 打ち上げが予定されている。 ASTRO-Eに搭載が予定されているX線望遠鏡(XRT)は 多重薄板型で約170枚の厚さ約0.2mmの鏡面があり、 鏡面はレプリカ方式で製作されている。
衛星での観測データは、観測機器の応答関数が含まれているため、その応答関数を 如何に正確に理解しているかによって、観測データ解析の質が決定される。 これを決めるため1999年12月までのおよそ2年間にわたり、 XRTの較正試験を行ない、筆者もその測定に携わった。 また平成11年10月からは、 特別共同利用研究員として宇宙科学研究所に在籍し、較正試験を行った。
較正試験はXRTに平行に近いX線をあてることで、 有効面積と焦点面像を測定することで行なう。 その結果XRTの有効面積は 幾何学的構造と鏡面の反射率から計算した理想値の70〜80%程度の 値であり、結像性能もおよそHalf Power Diameter(HPD)が2.1分程度 であることが分かった。
この像の広がりの原因を究明するため、1枚ごとの反射鏡にX線をあて、 その反射強度分布と重心位置を決定した。 まず、168枚の反射像を 重心を揃えて重ね合わせたところ、平均的な強度分布はHPDで約1.2分角の 広がりを持つことが分かった。 これは反射鏡面の法線揺らぎの大きさを 反映すると考えられ、可視光による鏡面測定結果と良く一致した。 次に個々の反射像の重心位置の分散を調べ、これがHPDで2分近いことが 分かった。
以上により、現在得られている結像性能が主に各反射鏡の傾きの揺らぎ によることが結論できた。 この揺らぎは鏡面基盤の両端の位置決め精度が 約26μm程度の誤差を持つとすると説明できる。
これらの結果を光線追跡シミュレーションに取り込み、 望遠鏡全体で得られている、結像性能、有効面積の低減が説明できるか、 比較検討した。
本論文ではそれらの測定結果と合わせ、それを基にした今後のX線望遠鏡の 高性能化への展望を述べる。
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