津田 理
Abstract
「あすか」衛星によってX線観測が行なわれてきたセイファート1型銀河の中の 多くに、高階電離した物質による吸収構造がみられる。 「あすか」のCCDカメラの持つ高いエネルギー分解能により、 その吸収端のエネルギーが正確に決められ、 高階電離した酸素によることが明らかになった。これらの電離した吸収体は 中心核からの強い放射によって暖められ、Warm Absorberと呼ばれている。 我々は中心核からの放射が変動する時のWarm Absorberの電離度、柱密度など の物理状態の変化に注目し、その構造を探ろうとした。
今回解析を行なったNGC5548, NGC3783の「あすか」による観測はNGC5548が 1996年に5回、NGC3783は1993年に2回、1996年に4回の計6回の観測が それぞれ行なわれた。いずれの天体でも電離した酸素による吸収構造(6階 電離:OVII(0.67keV)、7階電離:OVIII(0.80keV))が確認され、 その変動も観測された。
1日毎の変動に注目して解析を行なった結果、NGC5548では中心核のX線強度の 減少に伴い、OVIIIはほぼ一定であるのに対しOVIIの吸収が強まっていた。 これは、中心核が暗くなり電離ガスが再結合を起こしてOIXはOVIIIへ、 OVIIIはOVIIへと電離状態が移行したためと考えることができる。 一方NGC3783では、93年の観測でNGC5548と同様の傾向を示したのに対し、 96年では有意な変動は観測されなかった。 また、93年と96年を比較するとX線強度は約40%増加しており、吸収端の 深さはOVIIとOVIIIの比は殆んど一定のまま約40%にまで減少していた。
電離ガスの柱密度はNGC5548で約5×1021cm-2、 NGC3783で 約$2×1022cm-2(93年)、8×1021cm-2(96年) と様々であるが、観測されたOVIIとOVIIIの存在比はいずれも3:5程度であり、 従って電離度 ξ= L/nR2 は30〜50程度に限られる様に見られた。さらに、 吸収端の変動つまり再結合のタイムスケールから、電離ガスの密度が約106 個/cc以上と推定され、中心核からの距離が1018 cm以内、 視線方向の厚さが1016 cm以下という制限がつけられた。これらの値は、 AGNに付随する電離ガスとして良く知られているBroad Line Region (距離 1016-17 cm、密度 109-11 個/cc)と近く、 Warm Absorberの起源としてBLRより密度が一桁程度小さいcloudが BLR付近に存在するという描像が考えられる。
本論文では、こうした観測結果を基に、 他の天体との比較も加えて活動銀河核における電離ガスの状態に関して議論する。
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