近藤 和雅
Abstract
シャープレー超銀河団は、半径50h-150Mpc以内に銀河団を25個含む、もっとも銀河団数密度の高い超銀河団であり、A3558(z=0.0482)を中心にA3562・A3556・SC1327-312・SC1329-313から構成されるコアを持っている。Abell銀河団の中でA3558は、もっともリッチな銀河団の一つであり、その銀河分布とX線表面輝度分布は、北西-南東方向に伸びた構造をしている。また、その長軸方向にはいくつかの銀河団や銀河群が並んでおり、このことからシャープレー超銀河団のコアでは、この長軸方向に沿った物質の流入が支配的であると考えることができる。そこで、この特徴とX線観測から求められる温度と重元素組成比の空間分布とを合わせることによって、銀河団の力学的構造を解明できると期待される。
本研究では、総観測時間125ksecの非常に光子数統計の良いデータを用い、A3558の温度・重元素組成比分布を求めた。その結果、r<12'の領域の温度・重元素組成比分布は、それぞれ5-6keV・太陽組成比の0.3-0.5倍程度であることがわかった。かみのけ座銀河団やへびつかい座銀河団にみられるような極端に温度の高い領域が存在しないことから、A3558のr<12'の領域の分布は、銀河団同士のマージングにより作られたものではなく、A3558に属するいくつかの銀河集団が、中心のメインボディに落ち込むことによって作られていると考えることができる。また、これらの分布の異方性は、シャープレー超銀河団のコアでは長軸方向の物質の流入が支配的であるとする考え方を示唆する。
本研究では、さらにシャープレー超銀河団のコアに属する他の4個の銀河団についても、それぞれ温度・重元素組成比・X線光度・高温ガス質量・重力質量を求めた。その結果、5個の銀河団の重力質量の和は、やく2 x 1015Msolと見積もられ、シャープレー超銀河団のコアの平均密度は、臨界密度の約25倍となることがわかった。また、これら5個の銀河団の個々の温度や質量は、近傍の銀河団の温度-質量関係に従う。このようなことから、A3558は、高密度な環境に存在するにも関わらず、銀河団間の相互作用は弱く、標準的な密度の環境に存在する銀河団と差異がないことが明らかになった。
以上の結果より、シャープレー超銀河団のコアは収縮を始める前、もしくは収縮に転じて間もない天体であると考えることができる。
|