先に述べたように、硬X線を反射するためにはBragg反射を利用する必要があり ます。Bragg反射をおこすものの代表として結晶が上げられます。このような 結晶は、X線分光用の素子として実際に放射光施設等のX線ビームラインで活用 されています。しかしながら、分光素子として利用できるということは、それ だけ反射できるX線のエネルギーが限られているということでもあります。つ まり、入射角度を決めてしまうと、ごく狭い限られたエネルギーのX線しか反 射できないことになります。また、結晶の構造の周期の長さ(格子定数)は結晶 によって固有のものなので、こちらの都合に合わせて自由に変更するわけには 行きません。これでは、ほとんどX線の数を集めることができないし、X線のス ペクトルを得ることもできません。また、X線はエネルギーによって決まった 角度にしか反射しないので、視野を広げることもできなくなってしまいます。 これでは、X線望遠鏡として成立しません。
そこで我々は、種類の異なる物質をごく薄く交互に重ねていく多層膜を反 射面として用いました。多層膜なら、周期長を自由に変更できるので、目的の エネルギーに合わせて設計することができます。
しかしながら、多層膜によって反射できるX線のエネルギーは結晶ほど狭くは ないものの、やはりかなり限られてしまいます(図1参照)。
|