この図で、有効面積が3種類描いてありますが、これは多層膜の界面荒らさ による反射率の低下を考慮したものです。多層膜の2つの物質(我々の場合は プラチナと炭素です)の界面が理想的な平面なら問題はないのですが、どうし てもそうはならず、原子一個分くらいのがたつきはどうしても出てしまいます。 これは界面粗さと呼ばれ、多層膜の反射率の低下を生んでしまいます。様々な改良により、できるだけ小さくなるように製作方法を工夫はしていますが、現 在のところ0.3-0.4nmの界面粗さはどうしても避けられません。これにより、 20-40keVでの有効面積は約80平方センチメートルになります。
一方、望遠鏡のもう一つの重要な性能である空間分解能は約1分ほどになり ます。アメリカの最新のX線天文衛星チャンドラ等では1秒を切るような性能を 持っていることを考えるといささか劣るように思われるかも知れませんが、こ れは有効面積とのトレードオフになっているためです。チャンドラでは、望遠 鏡の反射鏡の基板として硬く、形状精度ので易いガラスを用いています。これ は空間分解能を非常に高めることが可能な代わり、基板が厚くなってしまうた めに大量の反射鏡を重ねることができません。我々は空間分解能よりも、有効 面積を重視して、基板として薄いアルミの板を用いています。このアルミ基板 は厚みがわずか150ミクロンしかなく、これによって256枚もの反射鏡を重ねる ことを可能にしているのです。ヨーロッパのX線天文衛星であるニュートンで はアルミよりも硬いニッケルの基板を用いて、15秒角程の空間分解能を達成し ていますが、これはかなり重くなってしまうので、大きなロケットを用いて打 ち上げたニュートンなら可能でも、我々の気球実験には不向きです。
今回の気球観測実験では名古屋大学は反射鏡の製作を受け持っています。 反射鏡の製作方法としては2つの方法を平行して用いています。1つはASTRO-E 衛星の望遠鏡にも使われていたプラチナのレプリカ鏡の表面に多層膜を後から 成膜する方法です。レプリカ鏡はガラス製の母型に鏡面となる金属(我々の場 合はプラチナ)を成膜し、それをエポキシ接着剤でアルミ基板上に剥がし取る ことによって、ガラス母型のなめらかな表面を写し取る方法です。これで製作 されたなめらかなプラチナ表面に多層膜を成膜することによって鏡を製作しま す。もう一つの方法は、ガラス母型に直接多層膜を成膜し、それを剥がし取る 方法です。この方法は、工程が減る上に、成膜中のレプリカ基板に対する熱ダ メージを考えなくていいので、成膜の速度が速くできるという長所があります。 ただし、いままでは多層膜を直接剥がし取るのは技術的に難しく、実現が難し いと言われていました。今回、我々はこの直接レプリカ法の技術を確立し、実 用に耐えるレベルになったと判断し、前述のプラチナ基板に成膜する方法と平 行して製作を始めることにしました。詳しい説明はU研のウェブサイトをご覧 下さい。
焦点面に配置する検出器として、NASAゴダード宇宙飛行研究所で開発され たCdZnTeのピクセル化された半導体検出器を用います。硬X線は透過力が強い ために、「あすか」を始め、最新のX線天文衛星で使われているようなX線CCD カメラは検出面でX線が止まらず突き抜けてしまうため、使用することがで きません。CdZnTe半導体検出器は100keV程度までのX線でほぼ100%近い検出効 率を持つ上に、1keV以下のエネルギー分解能を持つ非常に優れた検出器です。 これにより、望遠鏡で集めたX線を逃すことなく、効率的な観測が行えます。
以下に、InFOCuSの緒源をリストしておきます。