「あすか」搭載X線望遠鏡は、名古屋大学 U研、NASAゴダード宇 宙飛行センター、宇宙科学研究所によって共同で開発された多重薄板X線望遠鏡です。
過去の衛星搭載X線望遠鏡は主に研磨型と呼ばれるものでした。熱変形しない厚いガラス円筒の内面を、切削によって回転二次曲面(回転放物面、回転双曲面) にし、さらに研磨することによって非常に滑らかな表面を作ります。 この表面にはX線反射率の高い金などの膜が成膜されます。この方式は非常に高い形状精度を実現でき、角度分解能に優れた望遠鏡を作ることができます。 反面、厚いガラスを用いるため重量が重くなる、ガラス円筒の端面(X線の集光 に寄与しない)の占める面積が集光面積に比べて大きい、という問題がありま す。
「あすか」搭載X線望遠鏡には、反射鏡としてアクリルコートしたアルミフォイルの表面に金を蒸着したものを使用ています。この反射鏡の形状は円錐型 の母型にアルミフォイルを巻き付け、恒温槽で円錐形に熱成形することによっ て作られています。しかし、そのままでは表面が非常に粗いためX線の反射鏡 としては使えません。そこで、成形したアルミフォイルの表面をアクリルでコー トすることにより、X線反射鏡に要求される滑らかな表面を実現しています。 こうして滑らかにされた表面に金を蒸着してX線反射鏡が出来上がります。 望遠鏡の上部と下部には反射鏡を固定する溝が刻まれたアライメントバー が放射状に配置されており、この溝に沿って約1mmピッチで120 枚の反射鏡が 同心円状に配置されています。このように、薄い鏡を密に並べることによって反射鏡の端面の占める面積が小さく非常に高い開口効率を達成しています。
望遠鏡は衛星先端部に位置するため、熱源となる機器から離れており、望 遠鏡の温度環境は非常に厳しくなっています。望遠鏡の温度が他の機器よりも 低くなると、他の機器からの揮発物質が鏡面に吸着されたり、望遠鏡内に温度 分布が生じて反射鏡の形状が歪み、結像性能の悪化を引き起こす可能性があり ます。そこで、望遠鏡を宇宙空間から熱的に切り離すために、望遠鏡の入射口 部にはサーマルシールドと呼ばれる薄いフィルムがつけられています。このサー マルシールドには TORAY によって開発された厚み0.3ミクロンという世界最薄 (当時)の PET フィルムが使用されています (ペットボトルと同じ材料です)。 |