名古屋大学U研X線グループ
名古屋大学大学院理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 宇宙物理学研究室
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X線望遠鏡の開発

反射鏡の制作

高効率、高解像度X線望遠鏡の開発を目指して…
これまでのX線望遠鏡は、解像力だけを重視したEinstein-AXAF型のものと、効率だけを重視した、あすか型のものの両極端に分かれている。我々は、通常の精度の良い鏡に多層膜蒸着を付けて効率を稼ぐアプローチと、これとは独立に、高い効率を維持しながら、解像度をどこまで改善できるかと言うアプローチを計画している。最終的には両者の長所を取り入れたハイブリッドX線望遠鏡を目標に考えている。前者でカギになるのは、多層膜蒸着それも、斜入射X線望遠鏡の円錐形の内側に蒸着する技術の確立である。これまでも、小さなサンプルに多層膜を蒸着する装置を備え、分光素子や、小型の反射鏡のために設計・製作を行なってきた。しかし、想定される口径約50 cm長さ20 cm程度の円錐内面への蒸着を考え、新たな技術・装置の開発が不可欠である。ここでは、斜め入射光学系において、多層膜を蒸着することで、高いエネルギー側の反射率を増加させることに重点を置く。望遠鏡全体のデザインの中で蒸着物質、層の厚さ、層数を最適に設計し、実際に円錐鏡面の内面に蒸着する。これを、X線ビームライン、軌道放射光等で性能測定するところまで行なう。第二のカギは、鏡面基板の形状の問題である。長い表面波長を持つ凹凸(形状誤差)はシャープな像の中心部を広げる。細かな凹凸はX線を散乱させ、焦点面像にテールをもたらす。鏡面の機械加工では、加工時の温度、応力等も含め、形状誤差を如何に押さえ込むかが課題である。強調しておかねばならないのはナノメータの精度を出すには、形状計測の精度が伴わなければならないことである。とりわけ、大型の円錐鏡全体で精度を保証するためには特殊な技術と装置が必要になる。後者の薄い基板から出発するアプローチでは、薄い基板の形状誤差を、精密な母型からレプリカを取って解消しようと言う方法をまず考えている。母型については、前者のアプローチで開発されるものをそのまま使うことができる。カギは薄い基板を歪ませることなくはがし取ることができるかどうかである。基板としては、超軽量化を目指して今のところあすか衛星と同じアルミフォイル(0.13mm)を用いることを考えているが、将来の更に高い結像性能を考えると、円錐基板による剥離も試してみるべきであろう。この二つのアプローチの中間的なものとして、直接薄肉のアルミ円錐を削り出す方法も進められて来ている。水溶性のアクリルで固定した円錐を0.3mmまで削り込んだ後、アクリルを溶かして外す。加工精度と外す時の変形等に問題があるが、あすか衛星よりもかなりの改善が既にできている。また、前者のレプリカの基板に用いる等の応用も考えられている。
反射鏡の製作
開発項目 装置説明
 

クリーンルーム1

 

レプリカ鏡の製作
線反射鏡の製作
X線反射鏡の反射面は、X線の波長よりも大きな凹凸があると反射率が 低下してしまいます。このために反射面は原子のレベル(数Å「オングス トローム」)でなめらかでないといけません。我々の研究室では滑らかな 表面をつくるためにレプリカ法を用いています。
レプリカ法とは、直接表面加工が困難な薄い板になめらかな反射鏡面を 生成するもので、なめらかな母型のうえに反射鏡面となる膜を成膜し、接 着剤等を用いて別の基板に剥離(はくり)・転写する技術です。
クリーンルーム1
装置写真
 
クリーンルーム1
このような製作は、 非常にダストの少ないクリーンルームの中で行なっています。
 


















この成膜装置(大阪真空社製 PIS-R2 型)は、1995年3月に導入され、硬X線望遠鏡用多層膜反射鏡製作のための最適化を行なってきました。現在( 2000 年 5 月より )、世界初の硬X線望遠鏡試作を行なっています。
以下に、この装置の特徴、そして 硬X線望遠鏡 用多層膜反射鏡製作のための最適化について述べます。
クリーンルーム1
装置写真
大阪真空社製 PIS-R2 型の特徴
1.DC マグネトロンスパッタリング方式
放電空間に磁場をかけると、電子は磁場による ローレンツ力を受けてサイクロイド運動を するようになり、ターゲット近傍に閉じ込められる。 このようにすることで、陽イオンの生成効率を上げ ることができる方法を用いている。 その結果、(1)成膜速度を大きくすることが可能になる。 (2)グロー放電が持続しない 10 ** -4 Torrという 低いガス圧下でも放電が持続するため 、薄膜への混入物(スパッタガス)を減少させることができる、 (3)印加電圧を小さくすることができ、 ターゲットの温度上昇が抑えられ、 基板の温度上昇も小さくすることができる。という利点を持っている。
2.対向ターゲット方式
この真空槽内には、上下に2つの対向型スパッタターゲットが設置されている。一般に用いられているスパッタリング装置では基板 を陽極上に固定するために、基板がプラズマにさらされる、基板の温度上昇 、等による薄膜の膜質の悪化や表面の損傷がおこる可能性がある。これを避けるために 基板をターゲットに対して垂直に配置してある。またレプリカ基板などの円筒形状基板 の内面への成膜が容易になっている。ターゲットには冷却水を流すことで、 基板の温度上昇を防ぐ工夫もされている。 この成膜装置は上下に 2 つのスパッタ源を設置してあり、 サンプルをターゲット間を往復移動させ ることで多層膜の成膜を行なえるように設計してある。 ターゲットには、重元素[ Pt, Ir, Au, Cr, W, Ni ] 軽元素[ C, Si, Ti, B4C ]などが用意されている。
対向ターゲット方式
硬X線望遠鏡用多層膜反射鏡製作のための最適化
1.DOS/V computer による成膜の自動制御
硬X線望遠鏡製作には、 2000 枚近くの反射鏡に多層膜スーパーミラー の成膜を行う。そのため、成膜は DOS/V コンピューターを用いて、自動制御 にて行う。パソコンによる自動制御では、電流設定値やステージの回転速度 を制御することにより、設計値通りの成膜を行える。また、成膜の制御と同時に、 Ar ガスの流量、真空度、それぞれのターゲットに設置されている水晶振動子膜厚計 を用いて膜厚、および HV の値を常時モニターしている。
2.膜厚の制御
硬X線望遠鏡製作に使用する反射鏡は円筒形をしている。 製作は、この円筒形の面に均一に膜を成膜しなければならない。 そこで円周方向の分布は、サンプルを回転させ、分布をなくす。 高さ方向はマスク(右写真参照)を用いて分布をなくすようにします。 これにより反射鏡面上にて 5 %以下の膜厚分布を実現した。
スーパーターゲット
1.サンプル
レプリカ反射鏡基板を保持するもの。内側にレプリカ反射鏡基板 が設置されています。

2.マスク
高さ方向の膜厚分布をなくすためのもの。

3.回転ステージ
反射鏡基板をターゲット回りで回転させ、成膜する。
スパッタとは

sputterという字の意味を辞典で調べると「パチパチはねる」とかいてあります。ここでいうスパッタも、物体をイオンでたたき、これをはね飛ばし、はね飛ばされた物体を目的の基板の上につけて薄い膜を作ろうとするものであります。
具体的には、Arなどの不活性ガスイオンを加速してターゲット(物質)に高速で衝突させます。するとターゲット表面で原子や分子と衝突し様々な現象が起こります。この現象のうちで、ターゲットを構成する中性原子や分子が叩き出される過程をスパッタリングといい、 この叩き出された原子や分子を基板上に付着させ薄膜を形成する技術をスパッタ法と呼びます。 スパッタ法は、他の薄膜作成法と比べ、以下に示すような利点があります。

DC マグネトロン スパッタリング方式による成膜装置II
装置写真
  1. スパッタ法は、 膜を形成する粒子の持つエネルギーが数10eVと非常に大きく、真空 蒸着法などに比べ基板への付着力の強い緻密な膜の作製が可能(真空蒸着法では約0.2eV)

  2. 高融点の物質でも比較的容易に成膜可能(真空蒸着法では基本的には不可能)

  3. 広い面積に均一な厚さの薄膜を成膜できる

  4. 合金系や化合物のターゲットの組成比をほぼ保ったまま膜作製が可能

  5. スパッタするガスに反応性のガスを混合することによって、酸化物、窒化物の薄膜 の作成も可能
私たちはこの技術を利用してX線望遠鏡の反射膜を製作しています。
大阪真空社製 MS-R2 型の特徴
我々のグループでは、多層膜スーパーミラーの成膜用に前節で述べたDCスパッタ装置の他に最近導入した(1999年11月22日)、円筒外面の成膜も容易にできる新しい型のマグネトロンカソード方式のスパッタ装置も用いる。この新しい成膜装置の特徴はターゲットのサイズが幅75mm、高さが250mmと大きく、また水平の台の中に回転できる基板ホルダーが4つついており量産化が容易であることなどである。このスパッタ装置を、多層膜反射鏡、気球搭載用硬X線望遠鏡の研究開発に利用するために立ち上げを行なっている。
装置画像
装置画像
イオンビームは一体何をするために使うのか?イオンビームは一体何をするために使うのか?

私達の研究室では宇宙からやってくるX線を見ています。そのためにはX線を 反射できる鏡(反射鏡)が必要になってきます。鏡と言っても私達が普段使っているような 鏡ではありません。鏡に写る自分が見えるのは鏡によって反射された光を私達が 見ているからです。光が鏡によって反射されるのは普段私達が見ている光のエネ ルギーが弱いためです。しかし、X線はレントゲンなどで使われて知っているように、人間の体を貫通してしまうほどの強いエネルギーを持っています。そのため、普通の鏡ではX線は貫通してしまい反射させることができません。そこで、 このエネルギーの強いX線を反射させることができる特殊な鏡が必要です。この鏡を作るためにイオンビームを用います。

クリーンルーム1
装置写真
イオンビーム
イオンとは?
イオンビームの名前にもあるイオンとは何でしょうか?
イオンとは電気的な性質を持った原子のことを言います。地球も含めた宇宙にあ る全ての物は原子からできています。原子は普段は+の電気も−の電気も持って いない状態(中性)ですが、この原子になにか衝撃が加わると電気的な性質を持 つようになります。この状態がイオンです。
イオンとは?
+の電気を持つことができたイオンは電圧をかけてやると−の極の方へ飛んでい きます。+と−の電気は引き合うからです。
どのようにしてビームを出すか?
次にビームの発生する原理をイオンビーム発生装置の内部の構造と一緒に説明します。基本的な原理はイオンを作り、そのイオンを電圧をかけて−の極の方へ走らせてやるということだけです。かける電圧を大きくすればそれだけイオンは強い力で−の極へ引かれるので、より大きなエネルギーを持ったビームを発生させることができます。
イオンビーム発生装置図
以上のような原理でイオンビームが発生します。これでようやくビームが発生しましたが、では一体このビームを使ってどのようにしてX線を反射できる特殊な鏡を作るのでしょうか?
X線反射鏡の作り方
私達の研究室ではスパッタという現象を用いてX線反射鏡を作っています。イオンビームでスパッタという現象を起こすわけです。スパッタについての説明はスパッター蒸着装置2を参考にしてください。
イオンビームを用いた スパッタリング方式による成膜装置2
新イオンビーム

これから、新イオンビーム装置について説明します。この装置は、「DCマグネトロンスパッタリング成膜装置2」の内部に、新たに導入されたスパッタ装置です。

イオンビーム導入の目的
クリーンルーム1
装置写真
イオンビーム導入の目的
1.高真状態での成膜が可能(約2×10-4Torr)
→より純粋な薄膜の制作が可能になり、より高い反射率を持ったX線反射鏡を実現できる。

2.絶縁体のスパッタも可能
→様々な物質の組み合わせの多層膜の制作ができ、新しい多層膜X線反射鏡の研究が可能になる。

3.成膜条件を様々に変えることが可能
→●イオンガンとターゲットの距離、角度
 ●ターゲットと基盤の距離、角度
等の実験条件を自由に変えることができ、より詳しい多層膜物理の研究が可能になる。
新チェンバー内の新イオンビーム装置
下の写真は、今年(2001年5月)導入された、新イオンビーム装置のシステムの写真です。イオンビーム発生装置はシャッターの奥に設置されています。また、今見えているターゲットはカーボンターゲットです。シャッター奥のイオンガンから、このターゲットに向かってイオンビームが照射され、ターゲットから飛び出たスパッタ粒子を、手前にある基板に成膜して薄膜を作成します。
新イオンビーム装置の概形
次の図は、新イオンビーム装置の模式図です。図の220×25mmのビーム口からイオンが出てきます。PBNニュートラライザーというのは、熱電子を放出して、+の電気を持ったイオンを中性化する役目と、イオンビームの拡散を防ぐ役目をしています。
図1.2
成膜方法

ここでは、新イオンビームでの成膜方法について説明します。 イオンビーム発生の仕組みはイオンビームを参考にしてください。
下の模式図を参考にしながら説明します。まず下の図ですが、これはイオンビーム成膜システムを上から見たものです。ターゲットホルダーにはターゲットを最大4種類セットすることが可能になっていて、このホルダーが回転することによって、随時ターゲットを変えることができます。多層膜製作の手順は
1、シャッターを閉じた状態でイオンビームをON。
2、シャッターを開けて成膜開始。ここで、シャッターを開けると同時に時間を計測。
3、設定した時間になったらシャッターを閉じて、ビームをOFF。
4、ターゲットを回転させ、次のターゲットにする。

以上のプロセスを目的の積層数になるまで繰り返します。

図3
成膜の様子(上から見た図)
2001年10月現在、この装置の特性や、製作した多層膜反射鏡の性能評価を行なって、実用化に向けて実験を進めているところです。
 
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