名古屋大学U研X線グループ
名古屋大学大学院理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 宇宙物理学研究室
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近傍の天体のX線観測(分子雲)
X線で見る分子雲の影

 我々の銀河である天の川は無数の星の集団であるが、同時にそれらの星の材料となる星間物質の塊でもある。 星は分子雲と呼ばれる水素分子と塵の雲から誕生するが、その影響で分子雲の向こう側の天体は、これに隠されて観測する事ができない。
 このような分子雲に存在するガスと塵の量はそれぞれ異なる方法で見積もる事ができる。 ガスの量は特定の分子からの電波強度によって知る事ができ、塵の量は紫外線の吸収、赤外線の放射量等で見積もる事ができるが、これらは独立に個々の量を測定するものであり、物質の総量を一度に測定する事はできない。
 特に、星の誕生や進化の鍵となる重元素の量を測定するには、物質の形態(相)に因らないX線の吸収量によって、星間物質の量を見積もる方法が最良かつ唯一の方法である。 分子線の観測によって得られる物質の量は、炭素、酸素、窒素等の比較的軽元素であり、大部分の重元素は塵の中に含まれている。 一方、塵の量の測定は、塵粒子のサイズの仮定に基づいて、そこから期待される赤外線の総量から推定する方法であり、氷やガラス状物質など特殊な例を除いては、その分子を直接測定する事はできない。
 理論的には、十分な波長分解能を備えたX線検出器を用いれば、個々の原子に固有の吸収端を観測する事で、このような分子雲中の重元素組成比を測定する事が可能である。
 宇宙X線背景放射の分子雲による吸収を利用した、このような観測が日本のX線天文衛星ASCAによって試みられた。 観測対象はおおかみ座分子雲で、我々の太陽系から約500光年程度の距離にある星生成領域である。 総質量は太陽約3万個分でコアと呼ばれる密度の高い領域も16個と、牡牛座分子雲や蛇遣い座分子雲などの代表的なものと比べても大きな分子雲であるが、ガスの総量に対する誕生した星の割合である星生成率(SFE)は<1%と、蛇遣い座の>20%と比べて非常に小さい。
 蛇遣い座分子雲のような活発な星生成領域では、多くのX線源があるために、分子雲による宇宙X線背景放射の吸収を観測する事は非常に困難であるが、おおかみ座の場合は、逆にこのような明るいX線源が存在しないために、このような観測には非常に適した観測対象と言える。 下図は、ASCA(GIS:位置検出型蛍光比例係数管)によるLupus1N及びLupus5Eと呼ばれる分子雲コアの、0.7-1.8キロ電子ボルト、1.8-3.5キロ電子ボルト、3.5-10キロ電子ボルトの3つの異なるエネルギーバンド(波長)の像である。 

図1
一般にX線は、そのエネルギーが低くなるほど(波長が長くなるほど)よく吸収される性質があるが、これらの画像を見ると1番上の1.8-3.5キロ電子ボルトの画像に暗い部分がある事がわかる。 これは、分子雲コアにより宇宙X線背景放射が吸収を受けている事を示唆する。 そこで、分子ガスの分布をあらわす一酸化炭素からの電波強度分布及び塵の量を反映する赤外線放射量(IRAS衛星:100ミクロン帯)との関係をLupus1Nについて調べたのが下図である。
図2
 この図から、分子雲とX線の吸収の間に非常に良い相関がある事がわかる。 
 残念ながら、個々の原子の吸収端から重元素組成比を調べるために十分な統計(観測時間)と波長分解能がないので、これらを明らかにする事はできなかったが、ここで得られた吸収の量から物質の状態に因らない星間物質の総量を推定する事が可能である。
 これを定量的に調べるために、0.7-1.8キロ電子ボルトと1.8-3.5キロ電子ボルトの強度比を水素の柱密度(視線方向の1センチ平方以内に存在する等価な水素の数:以降NH)に換算したのが下図である。
図3

 これにより、x線観測から得られたNHは〜5x1021[cm-2]であるのに対して、電波観測(C18O: NANTEN)では〜9x1021[cm-2]、赤外線(IRAS)では〜3x1021[cm-2]、背景の星の減光を利用した方法(Star Count)では〜10x1021[cm-2]と倍以上のばらつきがある事がわかった。 しかしながら、本観測観測で得られたデータでは誤差・不定性も大きく、これ以上の定量的な議論は困難であり、今後のより高い集光能力をもった、高波長分解能を有するX線天文衛星による観測が待たれる。

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