X線スペクトルから明らかになった 光度-温度 (Lx - kT) 関係を示す。
エラーは90%の信頼度である。Lx - kT関係においては、赤方偏移が0.1以下の近傍(△)と、0.25以上の遠方(□)と、その間にあるもの(◯)の3つに分けた。 光度はガス密度、つまりガス質量の2乗に比例し、温度は銀河団のポテンシャル、つまり重力質量に比例する量である。
このLx - kT 関係は、Standard Cold Dark Matter (SCDM)モデルではベキが2となることが予想されるが、観測値としては > 3 が得られた。
これは、温度の低いポテンシャルの浅い銀河団がpreheating(銀河団が形成される直前に吹いた超新星の爆風による加熱)などの重力以外の加熱による影響を大きく受け、ガスが中心集中できず光度が下がった、かつエネルギーを得て温度が上がったとすると理解できる。このため、ガスフラクション fgas が温度の高い銀河団と低い銀河団で一定ではなく、温度の高い銀河団の方が fgas が大きくなると考えられる。今回は報告していないが、fgasのこのような傾向はASCAのデータ解析から明らかになっている。解析の結果、fgasは、温度の低い小さな系の銀河団で 〜0.02、温度の高い大きな系の銀河団で、〜0.2であった。
また、進化効果を調べるために、赤方偏移 0.1以下、0.1から0.25、0.25以上 のサンプルに分けて比較したが、有意な違いは見えなかった。 このように、赤方偏移が 0.3〜0.4 より小さいところで進化効果が見え ないというのは、低密度な宇宙(Low Ω Universe)や、high z でガスのエントロピーが大きいとする説と矛盾しない。 エントロピーについては、確かにhigh zで大きくなっている事が確認できた。
この図には、全てのタイプの銀河団についてプロットしてあるため、大きなばらつきが存在する。温度や光度は、個々の銀河団が 冷却流 Cooling Flow (CF) や 衝突合体・落ち込み merging/infall といった現象を伴っているかどうかで大きく影響を受けるからである。
Lx vs kT |
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Abundance - kT関係においては、光度 Lx に基づき、3つのグループに分類してある(明るい順に、×、□、◯とした)。また、重元素組成比のエラーが大きいものは除いてある。
重元素組成比は、高温の銀河団(kT > 5 keV)でほぼ一定、低温の銀河団(kT < 5 keV)でバラツキが大きいことがわかる。 低温の銀河団でばらつきが大きい原因として、 低温の銀河団は CF 現象 を伴う事が多く、CF 銀河団は重元素の中心集中の影響で重元素組成比が大きく見積もられる、ということが挙げられる。一方、元々のガスの絶対量が小さく、始源ガス primodial gas の銀河団への落ち込みの影響が大きいため、かつ/または、ポテンシャルが浅く、重元素で汚染されたガス processed gas が銀河団から流出してしまうため、重元素組成比の小さな銀河団があると考えられる。
Ab vs kT |
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次に、重力質量の動径分布からNavarro, Frenk & White (NFW)モデル(δc, Rs) を使い、 Characteristic Density δcとVirial Mass M200 (ρ=200ρcになる半径内の重力質量)を求め、これについて、相関をとった。ρcは、critical density (= 3H02 / 8πG)である。(下図)
このサンプルは、統計の足りないものを除いた83個のターゲットについての結果である。
M200 vs δc |
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この関係が、3桁に渡る質量においてべき関数になっており、これは、全ての 銀河集団が自己相似形になっていることを示している。自己相似形を仮定する と、ρc は( zf + 1)3 に比例している。従って、上 の方ほど古い系である。つまり、質量の小さな銀河の方が古く、質量の大きな 銀河団程、最近に形成されたものであることがわかる。我々のサンプルの中に 赤方偏移が形成年代と一致する銀河団が含まれているとすると、ρc / ( zf + 1)3 = 1640 ± 260となり、ρcから形成年代を (銀河:〜 14、銀河団:6〜9と)推定することができた(参考論文)。また、 SCDMモデルでは、ρcと系の大きさRsが、宇宙初期の密度揺らぎ(P(k)が knに比例)のべきnを使って、ρcが Rs-(3n+9)/(n+5) に比例すると表す事ができる。従って、ρcとRsの相関図からnに制限を加える 事ができる。M200 = 1012-15 Moの銀河団で、n = - 1.2 ± 0.3となり、M200 = 2 x 1014 - 1015 Moの銀河団で、n = -0.8 ± 0.7となった(参考論文)。
参考論文
S. Sato, F. Akimoto, A. Furuzawa, Y. Tawara, M. Watanabe, Y. Kumai,
Astrophys. J. 537, L73.(2000)
"THE OBSERVED MASS PROFILES OF DARK HALOS AND THE FORMATION EPOCH OF GALAXIES" Abstract, PDF