超新星残骸とは何でしょうか?恒星、その中でも質量が太陽の数倍以上あるよ うな大きな星はその進化の果てに超新星爆発と言われる大爆発を起します。 この爆発によって放たれるエネルギーはすさまじい量で、この銀河系全ての星 の明るさを越えてしまうほどになります。これほどの大爆発になるとその痕跡 が何万年にも渡って残り、様々な形で観測することができます。これが超新星 残骸と呼ばれるものです。
宇宙の化学的な進化はそのほとんどが恒星の中での核反応で行われます。はじ めは水素とへリウムしか存在しなかった宇宙で、様々な元素が誕生したのは恒 星の中なのです。これらの重い元素は超新星爆発を通して宇宙空間に放出され ます。超新星残骸を研究するということはすなわち、宇宙の化学的な進化を調 べる事でもあります。
では、超新星残骸はどのような形で我々に観測されるのでしょうか?その形態 は大きく分けて2つに分類することができます。1つは、大きく広がった高温 のプラズマの塊として観測され、多くの場合殻状の球形をしているため、シェ ル型超新星残骸と呼ばれます。これは、超新星によって飛散した星の残骸(イ ジェクタと呼びます)が、音速を大きく越えて飛び散るために衝撃波が発生し、 この衝撃波によって一千万度以上の高温に加熱された星間物質やイジェクタそ のものが見えているものです。この超新星残骸は時間と共に次第に形態を変え、 進化していきます。その進化の課程は4つに分類され、
- 自由膨張期
- 断熱膨張期
- 放射冷却期
- 消滅期
と呼ばれています。自由膨張期は飛び散ったイジェクタが何にも妨げられるこ となく自由に広がっている状態です。この状態では、超新星のエネルギーはイ ジェクタの運動エネルギーに大半が使われており、ほとんど光を出しません。 この状態が約100年ほど続きます。時間が経ち、飛び散るイジェクタによって 発生した衝撃波(ブラストショックといいます)に掃き集められた星間物質の量 がイジェクタとほぼ同質量になって来ると断熱膨張期に入ります。衝撃波は飲 み込んだ物質を圧縮、加熱していく性質があるので、掃き集められた星間物質 は非常に高温に加熱されます。この時期の衝撃波の速度は数百から数千km/sec 程もあり、これによって加熱された星間ガスは数千万から数億度にもなります。 また、衝撃波は密度の高くなったガスの殻に跳ね返され内側に向かっても走り 始め(これをリバースショックと言います)、イジェクタ自体も加熱します。こ の加熱されたガスはその温度に応じたX線を放射します。ただし、その量は超 新星残骸全体のエネルギーに比べると非常に小さいので超新星残骸そのものは ほぼ周りとのエネルギーのやり取りのない断熱状態にあると言えます。この時 期が約1万年ほど続きます。さらに進化が進むと、膨張するのに使うエネルギー が超新星残骸全体のエネルギーの中で大きな割合を持つようになってきて、膨 張速度が遅くなり、超新星残骸は冷え始めます。高温ガスは数百万度程度の温 度では冷えれば冷えるほどたくさんの放射を出すようになり、冷えたガスは局 所的に収縮して、なお効率よく放射を出すようになるので、エネルギーを放射 の形で吐きだし続け、一気に超新星残骸の温度が下がり始めます。この状態が 放射冷却期です。超新星残骸はこの後もさらに冷えていき、周りの星間空間と 区別がつかなくなり消えていき、消滅期へと移行していくことになります。こ のとき密度の低い中心部分はいつまでも冷えずに残り、宇宙にホットバブルと 言われる泡状の構造をつくります。
もう一つの超新星残骸は、その代表的な天体の名を付けて蟹星雲型と呼ばれま す。超新星が起ったときに、その中心に星の核が残る場合があります。恒星で はその巨大な重力を核反応のエネルギーで支えていますが、その核反応の燃料 が切れたときに超新星爆発を起し、中心に残った核は自らの重力で収縮してい きます。この重力はすさまじいもので、原子の構造さえも破壊し、電子は陽子 に取り込まれ中性子となっていきます。元の星の質量がある程度以下だと、収 縮は中性子の縮退圧という圧力によって止められます。この状態が中性子星と いわれる中性子の塊の星です。この星はわすか10km程の直径の中に太陽1個分 よりまだ多い質量を含みます。さらに質量が大きいと中性子の縮退圧でも収縮 は止まらず、物質はシュバルツシルド半径と言われる事象の地平の彼方へ落ち 込んでいってしまいます。この中からはあまりの重力ゆえに光すら脱出するこ とができず、その中をうかがうことはできません。これはブラックホールと呼 ばれます。蟹星雲型超新星残骸の正体は中性子星です。この中性子星は元 の恒星が持っていた角運動量をそのまま持って収縮しているので、1秒間に数 回から数百回という凄まじい速度で回転しています(フィギュアスケートで回 転している人が腕を縮める事で高速で回り出すことを思い出してください)。 さらに、元の恒星の磁場をも圧縮しているので、中性子星の表面では1兆ガウ スもの磁場が発生しています。これだけの磁場をこのスピードで回転させると 磁気双極子輻射を発生します。これがパルサーです。蟹星雲の中心にも蟹パル サーと言われるパルサーが存在します。さらに、ほぼ光速に近いスピードで回 転する磁場の先端では磁場によって荷電粒子が加速され可視光やX線で輻射を 発生します。これが蟹星雲型超新星残骸の正体です。
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