名古屋大学U研X線グループ
名古屋大学大学院理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 宇宙物理学研究室
〒464-8602  名古屋市千種区不老町 Tel:052-789-2921 Fax:052-789-2919
 
Home Uir Site map English
ヘッダー
研究室紹介 研究プロジェクト 研究概要 研究成果 アクセスマップ お問い合わせ 関連リンク
研究概要
観測機器開発
X線望遠鏡
X線望遠鏡とは
反射鏡の製作
反射鏡の性能評価
X線望遠鏡の製作と評価
X線分光法の研究
X線検出器
実験室設備一覧
専門用語辞典
観測
宇宙X線背景放射
超銀河団
銀河団
衝突・合体 / CF銀河団
SZ効果と宇宙の年齢 / 共鳴散乱
電波源 / 我々の銀河の影
銀河群
fossilグループ
活動的銀河核(超巨大ブラックホール)
超新星残骸

近傍の天体のX線観測
激変星

近傍の天体のX線観測
分子雲
近傍の天体のX線観測
近傍の天体のX線観測
星生成領域
研究プロジェクト
近傍の天体のX線観測(激変星)
激変星XY Ariの発見とX線放射

 Lynds1457(又はMBM12)は我々の太陽系から最も近い暗黒星雲であり、その距離はわずか200光年(1光年は約1京km)である。 暗黒星雲は、何も存在しない暗黒領域などではなく、背後にある星を手前の塵やガスの塊が隠すことによって、相対的に暗く見える領域で、これらの星間物質は自己重力で収縮し、やがて星が誕生してゆくと考えられている。 その意味で、暗黒星雲は星の材料の宝庫ということもできる。 この様な近隣の暗黒星雲は星生成領域としては格好の研究対象となる。 この領域の観測により、1985年にアメリカのX線天文衛星EinsteinによってX線天体、H 0253+193が発見された。 X線による観測は、後述のような高エネルギー現象を対象とするが、その特徴は、単に高エネルギー現象を観測できるというだけではなく、暗黒星雲のような、大量の物質に阻まれた領域の観測において、非常に有利である。 これは、医療用レントゲンを見てもわかる通り、その物質の透過力の強さにより、他の波長による観測では不可能な、隠された天体を検出できることによる。

図1
 当初この天体は生まれたばかりの星(原始星)に特有の激しいX線放射であると考えられ、大きな注目を浴びることはなかった。 一般に、誕生期の恒星は非常に活動性が高い事が知られており、太陽と比較して一桁強い磁場と、数日(太陽はほぼ1ヶ月)という速い回転周期により、星表面に存在するプラズマ(原子同士が特に激しい衝突を起こした際に実現する完全電離状態にある気体で、固体、液体、気体に続く物質の第4相と呼ばれる事もある)が激しく加熱されていると考えられている。 X線はその光子のエネルギーが可視光に比べて1000倍以上大きいため、X線を放射するためには温度に換算して数千万度程度の超高温状態の存在が不可欠であり、X線放射現象は太陽のような恒星表面での爆発現象(フレア)や超強重力場中(ブラックホール、中性子星、白色矮星等)への物質の降着現象などにおいて見られる現象である。 誕生期の星表面でのとりわけ激しいX線領域での活動性は一般的に良く観測されており、この解釈は最も自然であった。 しかしながら1989年になって日本のX線天文衛星GINGAによって206秒の周期変動が発見され、この事は大きな謎として取り上げられることになった。 この短い周期はその天体が高速で回転している事を示しているが、このような天体はその強大な遠心力に抗する重力が必要なため(通常の恒星がこのような高速で回転した場合星自体が飛散してしまう)原始星とは考えられず、中性子星や白色矮星などの高密度星(1グラム当たり1トン(白色矮星) 、1グラム当たり10億トン(中性子星))である可能性が濃厚になった。 しかしながら、これらの高密度星は星の終末の姿であり、星生成領域には見られる事はない。 この謎を解明するため、GINGA衛星による再観測が9日の長期にわたって行われた。
図2
 観測目的はこの連星系(通常このような高密度星は連星を成している)としての性質を突き止め、その正体を明らかにすることであった。 通常の連星系の軌道面に近い方向から見た場合、目的の天体の相手の星による食(日食や月食と同様の天文用語)が期待されるが、筆者らは本研究においてこの食現象を9日間の観測から得られたX線の強度変動から、合計6回の食現象(人工衛星による観測はその運用の都合上離散的であるため、検出できたのは54回中この6回のみ。 食の積分観測時間の合計は〜2300秒)を発見し、これら限られたデータの時系列解析から、その軌道周期を21829+/-3秒とほぼ1万分の1の精度で決定する事に成功した。 さらに、食の持続時間(1990+/-30秒)及び遷移時間(〜50秒)より得られた軌道要素(星と星の間隔、高密度星の半径等)、X線放射領域のサイズの制限等の条件から、この天体(連星系)が白色矮星と低質量星との近接連星系である激変星のうち、DQ Her型のものであことを突き止める事に成功した。 これらのデータ解析の結果、このX線天体は、見掛け上偶然暗黒星雲と重なった、遠方のDQ Her型激変星であることが明らかになった。
図3

 現在この天体はXY Ariと命名され、その名前で知られているが、X線スペクトル(X線分光)を含めた、同データの詳しい解析の結果、連星系周辺の物質分布が明らかにされた。

参考文献

1. " DISCOVERY OF PERIODIC ECLIPSES IN THE X-RAY PULSAR 1H 0253+193"
Astrophysical Journal, Part 2 - Letters, vol. 379, Oct.1, 1991, p. L65-L68
KAMATA, Y, TAWARA, Y and KOYAMA, K

2. "Binary structure and accretion flow of the new intermediate polar H0253 +193", Astrophysical Journal, Part 1, vol. 405, no. 1, p.307-311

 
Copyright (c) 2008 Nagoya University . All Rights Reserved.  
 
トップページに戻る