へびつかい座暗黒星雲は、全天で最も活発な星生成領域で、我々の太陽系の近隣に存在し(距離〜500光年)、最も研究が行われている星生成領域である。 この領域には、このようなI型原始星が密集しており、絶好の研究対象である。
赤外線観測で得られる情報は、原始星本体および星周辺の塵(太陽系の惑星の原料となる)のものであり、原始星表面での超高温現象についての情報は何ももたらさない。 一方、X線による撮像観測による研究は過去、1980年代には アメリカのアインシュタイン衛星によって、1990年代以降は ドイツのROSAT衛星によって精力的になされたが、これらの観測機器は透過力の弱い低エネルギーX線による観測であるため(感度領域<4キロ電子ボルト以下;減光にして10等級程度相当まで)、検出された原始星の99%以上がIII型原始星に限られていた。 そのため、I型原始星の検出例は皆無であり、そのような天体のX線領域における活動性はまったくの謎に包まれていた。
1993年に打ち上げられた日本のX線天文衛星ASCAは、これら海外の衛星と比較して高エネルギー領域までの高い感度を持ち(<10キロ電子ボルト;減光等級にして〜100等級相当)、I型原始星を初めて検出する事に成功した。
ASCAはそれまでの撮像型X線天文衛星と比較して、波長分解能、集光能力ともに一桁向上し、X線天体の中では最も暗い「恒星」の、高エネルギーX線スペクトルを得られる唯一の衛星であり、この特徴により減光の大きな原始星のような微光天体を検出することが可能である。
ASCAによるへびつかい座の観測データの、天体の同定、X線スペクトル、時間変動の詳細な解析によって、中心領域に19の原始星を検出し、このうち3つがI型原始星を検出し、その内の一つ(Elias29)太陽の1万倍の規模のフレアを起こしていることが初めて明らかになった。 |