近傍の天体のX線観測 激変星
宇宙に存在する天体からは目に見える光(可視光)だけでなく、電波からX線やγ線まで、様々な波長をもつ電磁波が放射されています。 最近では観測技術の向上に伴い、異なった波長域での観測を比較することが可能になり、さらに興味深い研究が盛んに行なわれています。 そのなかの一例として、波長の長い電波を放射する天体と同じ場所から、我々の観測している波長の短いX線が放射されていることが観測によって明らかになって きました。 電波源と同じ場所から出ているX線は逆コンプトン散乱による放射であると考えられています。この放射機構は銀河団から出ているX線の放射機構である熱放射とは違うものです。
--電波源とその形--
電波源のなかには単独ではなく、銀河団の中に存在しているものがあります。 電波源は中心にある活動銀河核(AGN)をエネルギー源として、そこから対称的に伸びる2本細長いジェットと、それぞれの先端部分にある広がったローブで構成 されています。それぞれのサイズは大きいもので、ジェットは数十万光年、ローブは数万光年にもなります。
単独で存在している電波源は周りに物質が少ないため、比較的対称的な形を保っています。しかし、銀河団の中に存在する電波源は、中心の電波銀河固有の運動と、 その周りには銀河団に付随する高温のプラズマガスの存在のため、形が変形している ものがあります。2つのジェットが対称的ではなかったり、途中で折れ曲がっていたりしています。また、ローブの部分がなくジェットがテイルを引いたような形をしているものもあり、その形は様々です。
--銀河団内にある電波源--
上の章でも書いたように、銀河団の中に含まれる電波源は比較的いびつな形をしているものが多く、興味深い天体です。なぜそのような形になったのかという議論がなさ れていますが、詳細はまだわかっていません。
そこで我々は、電波銀河3C 129を中に含んでいる銀河団である3C 129 Clusterを解析し、その電波源から放射されていると思われるX線を発見しました。 10.0 keV以下のエネルギー領域において電波源から放射されている逆コンプトン散乱 のX線は、周りにある銀河団ガスの熱的なX線に比べて輝度が弱いため、一般的に発見 することが困難です。しかし今回我々は、異なるエネルギー領域の表面輝度分布を 2つ作りそれらの比を取ることで、図1に示したように2次元イメージとして逆コン プトン成分が存在する可能性を得ることができました。また、銀河団ガスからの 熱的な放射の成分を疑似的に引くことで、図2のような超過成分が存在することもわかりました。(和田恵一 日本天文学会 2001年秋季年会において発表)
遠くの天体からくるX線などの電磁波は、その途中の視線上にある様々な物質に 吸収や散乱されることによって遮られていると考えられています。紫外線などの 電磁波を吸収することで有名な、地球を取り巻く大気もその吸収物質の一つであり、 X線はその大気を通過することがほとんどできません。 地球の大気とは別に、我々の銀河の空間に多く存在する水素原子はX線を吸収する 代表的な物質です。 --我々の銀河による吸収--
現在主に観測が行なわれている10keVまでのエネルギー領域では、我々の銀河空 間に存在する物質(主に水素原子)による吸収の影響を受けています。特にエネルギ ーが低いほどその影響は大きくなります。また、我々の銀河は平らな円盤状を しており、地球を含む太陽系もその銀河面に位置しているため、観測したい天体と 地球を結ぶ視線方向に銀河面が存在すると、その吸収の影響は大きくなることに なります。
--銀河団を用いた我々の銀河の吸収物質構造の発見--
銀河系外にある天体からのX線は我々の銀河による吸収を受けるので、もしその 吸収物質にむらがあれば、その構造を反映して観測されるはずです。 このような吸収構造を見るための天体としては、我々が観測を行なっている銀河団が 最適です。銀河団からのX線は高温プラズマから放射であるため比較的一様に広がって いるからです。
我々はASCA衛星によって観測が行なわれた銀河団の中で、我々の吸収を強く受けると 考えられる銀河面上に位置し、比較的ガスの温度が高温で、さらに地球から比較的 近傍に存在することで大きく見えるような銀河団である、3C 129 Clusterを選びその 解析を行ないました。
その解析の結果、図1のように3C 129 Clusterの広がっている直径約20分角の領域の 中に、周りと 比べて我々の銀河による吸収の影響をを強く受けている部分が存在することが発見さ れました。この部分をスペクトルを用いて詳しく解析したところ、視線上の吸収物質 の量を表す水素柱密度にして1.4*10^21 cm^-2だけ周りと比べて超過していることが わかりました。(和田恵一 日本天文学会 2001年秋季年会において発表) この部分の吸収の量がどの様な原因で大きくなっているのかを知るた めに、現在、X線だけではなく違う波長域の観測結果も同時に解析を行なっています。