先にも述べたように、X線は粒子(=光子)とみなすことが出来ます(「明るさ」の欄参照)。よって、ここで言う「相互作用」とは、光子と原子(正確には原子を構成している電子)との衝突により、互いに影響を及ぼし合うことを指しています。
さて、この相互作用によりどのような結果が生ずるでしょか。そもそも原子は、その質量の大半を担う原子核と、その周りを飛び回る電子から構成されています。電子は原子内部を自由にどこでも動き回れるわけではなく、確率的に決まった領域のみで動くように制限されています。化学の教科書でよく目にする、K殻、L殻、M殻‥というのが、まさにその存在領域を表しています。また、それぞれの殻に存在している電子は、この順番で、より強い結合エネルギーを持って、原子内に束縛されています。
このように、原子内部では異なる殻によって異なる結合エネルギーを持った電子が存在するわけですが、X線は主として、K殻の電子と衝突する性質を持っています(K殻電子の結合エネルギーとX線の持つエネルギーが同じような値であるため)。X線の持つエネルギーが、K殻電子の結合エネルギーよりも大きい場合には衝突によって電子は原子の外へ弾き出されてしまいます。さて、こうなるとK殻の電子が一つ無くなってしまった(空席ができた)ことにより原子は不安定な状態となってしまいます。よって、この空席を埋めるようにL殻やM殻の電子がK殻に移ることで原子として安定になろうとするわけです。ただし、ここで重要なことは、「L殻やM殻の電子がK殻に移る為には、ある決まった量のエネルギーを放出しなければならない」ということです。実は、この「決まった量のエネルギー」が光という形で放出された時、その光こそが「輝線」として観測されているものになります。各原子ごと、また、どの殻からどの殻へ電子が移動するかによっても放出されるエネルギーが異なるため、観測される輝線のエネルギーも異なってきます。逆に言えば、輝線を観測することで、それを発した原子や、どのような電子の移動によって放出されたのか、といったことを知ることが出来るわけです。
AGNに限らず、ありとあらゆる天体の観測に於いてこの「輝線」の観測と解析が重要であるという事が理解されると思います。